技術情報

中空ナノシリカ【シリナックス】の応用技術

バルーン(中空)構造を持つシリナックスを塗料や樹脂に添加することで、ナノ空間を作ることができます

シリナックスはバルーン(中空)構造を持つシリカ粒子です。この粒子を塗料や樹脂に添加することで、内部にナノ空間を作ることができます。塗料や樹脂はこのナノ空間に入り込まないので、ナノ空気層として働きます。そして、このナノ空気層が、塗料や樹脂の絶縁性や断熱性を高める作用をします。

シリナックス(中空ナノシリカ)のTEM像

概要

近年の情報通信技術の進歩は、通信周波数の高周波化をもたらしています。それに伴い、使用される情報通信機器も高周波に対応させるため、低誘電率の配線回路基盤が要求されています。しかし、これまでの技術では、安価な低誘電率絶縁材料が少ないために、低誘電率の配線回路基盤を安価に製造することは困難でした。

ところで、配線回路基盤の低誘電率化を図るためには、回路基盤中に使用される絶縁膜の誘電率を低くする必要があります。このためには、誘電率の低い有機樹脂等を絶縁膜に配合する方法もありますが、より身近にある空気を利用することで解決することが可能ではないかと考えられました。すなわち、絶縁膜内にナノサイズの空気層を作ることで、絶縁膜の誘電率を下げるのです。

また、車のアルミホイールやアルミサッシなどのアルミ製品は、その表面に保護層を塗膜しないと、アルミが酸化され、白化現象が見られます。この現象を防ぐために、これまではアルミの表面をクロム処理するなどして保護層を形成してきました。しかし、近年の環境問題の高まりから、クロムを使用しないアルミの酸化防止膜形成方法が求められていました。

この要求に応えるためには、アルミの酸化防止膜内に絶縁性に優れる空気層を作ればよいのですが、これまでの技術ではナノサイズの均一の厚さの空気層を作ることが困難でした。

これらの課題を解決するために考えられたのが、ナノサイズの中空粒子を樹脂や塗料に添加して、絶縁膜やアルミ酸化防止膜内に均一な厚さの空気層を作ろうというアイデアです。

そして、これらの目的を達成するためのナノサイズの中空粒子として開発されたのが、中空ナノシリカ「シリナックス」です。

なお、この技術は、平成16年度中部経済産業局地域新生コンソーシアム研究開発事業「ナノ中空粒子を用いた超低誘電率絶縁膜及び防食塗料の研究開発」において開発されたものです。

特長

シリナックスを配合することで、塗料や樹脂中にナノ空間を作ることができます。この効果により、絶縁性や断熱性、弾力性が向上します。また、手をふれたときの感覚も独特な趣となります。

構造

シリナックスを配合した塗料や樹脂を塗布すると、下図のようにナノ空間が作られます。

シリナックスによるナノ空間のイメージ

原理

シリナックスの応用技術は、空気の絶縁性や断熱性を利用したものです。また、シリナックスのナノ空間は、以下のように合成されます。

シリナックス合成のイメージ

適用分野・用途

シリナックスを塗料や樹脂に含有させることで、塗膜層や樹脂層内部にナノ空気層を作ることができます。

このナノ空気層の働きにより、塗膜の屈折率が低くなり塗膜の反射を低減させたり、樹脂の誘電率を下げるので絶縁性を高めることができます。また、このナノ空気層が断熱層の働きをするので、断熱塗料として使用することも可能です。さらに、シリナックスは無機物であるので、難燃性の向上も図ることができます。

また、シリナックス含有塗料を人工皮革表面に塗布すると、表面のつやが消え、見栄えが天然皮革のような感じになるとともに、シリナックスの吸液性により表面の手触り感に独特の風味が加わります。

関連情報
【関連製品】
用語解説
【バインダー】
バインダーとは、粒子と粒子あるいは粒子と基板をつなぎ合わせる「接着剤」のことです。シリナックスを含有した塗料では、塗料成分がバインダー(接着剤)の役割をしています。
【アルミ表面のクロム処理】
アルミニウム合金は、表面に耐食性を付与するためや、塗装の密着性を向上させるために下地処理を行います。この下地処理に、アルミニウム合金の表面に化学的に薄い膜を形成させる方法があります。そして、この方法の中でも、一般的に、クロム酸あるいはクロム酸系の薬剤を使用するクロメート処理が多く採用されています。このクロメート処理では、環境に有害な六価クロムを使用するため、処理後の廃液にも六価クロムが含まれています。そのため、六価クロムを使用しない、環境にやさしいアルミニウム合金の下地処理方法が求められています。

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